群馬県中小企業のAI活用事例:製造業・農業に見るDX最前線

「AI活用」と聞くと、東京の大企業やIT企業の話だと感じる経営者は少なくありません。しかし群馬県では、製造業の現場や農業の生産地、そして自治体の窓口で、すでに具体的な成果を伴うAI・DXの取り組みが進んでいます。
群馬県は全国でも有数の製造業集積地であり、キュウリやキャベツをはじめとする農産物の主要産地でもあります。さらに群馬大学が自動運転研究の先進拠点を持つなど、モビリティ分野でも独自の強みを持つ地域です。本記事では、こうした群馬県の産業特性に根ざしたAI・DX活用の実例を、製造業・農業・自治体・産学連携の4つの視点から紹介します。なお、本記事で紹介する数値データは2026年3月時点で確認された情報に基づいており、最新の状況は各企業・自治体への確認をおすすめします。
製造業:属人化していた技術をAIで解放する
群馬県は製造業の比率が高い地域として知られています。長年の課題は、熟練技術者の「目利き」に依存した業務が多く、若手への技術継承や見積もり作業に時間がかかることでした。この課題にAIで正面から取り組んだのが、配電盤・制御盤の設計製造を手がけるクシダ工業株式会社(従業員数296名)です。
同社は経済産業省の「AI人材連携による中小企業課題解決促進事業」を通じて、2D図面から部品や工数を自動でカウントする機械学習モデルを構築しました。従来、営業担当者が図面を目視して見積もりに必要な情報を拾い出す作業には2〜3日を要し、担当者によって金額に差が出る「属人化」も課題となっていました。検証では、電圧を区別する記号(1,219個のデータ)の解析において正解率99.75%という高い精度を達成し、数日かかっていた見積もり作業を数分に短縮できる可能性が示されています。

図1: 図面のデジタル化から機械学習によるパターン認識までの流れ
同様に技術継承の課題に取り組んだのが、プレス金型製造の有限会社永井製作所です。同社は「技術者として一人前になるまでに10年かかる」とされてきた属人的な職人技からの脱却を目指し、ものづくり補助金を活用して3D設計とMR(複合現実)技術を導入しました。従来は2次元図面を中心とした設計で修正作業に膨大な時間がかかっていましたが、デジタル技術の導入によって若手人材の育成期間の大幅な短縮を実現し、経済産業省の優良事例としても評価されています。
製造業各社の取り組みを整理すると、着手する業務は異なるものの、共通して「属人化していた作業のデジタル化・自動化」を起点にしていることが分かります。
| 企業名 | 主な事業 | 導入内容 | 成果 |
|---|---|---|---|
| クシダ工業 | 配電盤・制御盤設計製造 | 図面解析AIによる部品カウント自動化 | 解析精度99.75%、見積もり作業を数日→数分に短縮 |
| 永井製作所 | プレス金型製造 | 3D設計・MR技術の導入 | 若手育成期間の短縮、属人化からの脱却 |
| 株式会社土屋合成 | プラスチック製品製造 | 生産管理システムの自社開発、ロボットによる取り出し自動化 | 24時間稼働の実現、人的ミスの回避 |
| システムセイコー | 半導体製造自動化装置 | 材料管理アプリ導入、社内DX人材の育成 | 現場作業効率の向上、採用活動の強化 |
| 株式会社菊地製作所 | 金属加工(従業員23名) | 生産管理システムの新規導入 | 客先不適合ゼロを目標とした品質管理体制の構築 |
出典: 独立行政法人中小企業基盤整備機構「令和6年度中小企業事例集」、出典: 経済産業省「AI人材連携による中小企業課題解決促進事業」事例集
いずれの企業にも共通するのは、経営トップ自らがDXの目標を設定し、積極的に関与している点です。ITベンダーへの丸投げではなく、現場の業務を最も理解している社員がツールの使い方を学びながら定着させていく「内製化」のアプローチが、成功の鍵になっています。
農業:人手不足の解決策としてのロボットとAI
群馬県は農業県としての側面も強く、キュウリは県内の農産物販売高で第2位、年間100億円を超える主力品目です。一方で、夏場の高温下での収穫作業は過酷であり、生産者の高齢化と労働力不足が深刻な課題となっています。
この課題に対し、JA全農ぐんまはAIとロボットを開発するAGRIST株式会社と連携し、「キュウリ自動収穫ロボット」の実証実験を前橋市江木町の園芸作物生産実証農場で実施しました。レール走行式のロボットがカメラとAIで作物を認識し、自動で収穫を行う仕組みで、土耕圃場での実証では収穫率55%、連続稼働時間10時間、収穫能力はキュウリ0.3本/分という結果が報告されています。葉が繁茂した際の視認性低下という課題も明らかになり、AIの画像認識ルールの改善が継続的に進められています。

図2: レール走行式ロボットとAIによる自動収穫の仕組み
また、病害虫の発生を予測するAIアプリ「MIRAI」を開発する株式会社ミライ菜園は、JA全農ぐんまと業務提携を結び、生産者やJA指導員のデータを継続的に収集しながら営農指導のDXを進めています。農薬の適正使用と収量の安定化を、AIによるデータ活用で支える取り組みです。
製造業のAI活用が「作業の自動化・精度向上」を主眼としているのに対し、農業分野の取り組みはまだ実証段階にあるものが多く、収穫率55%という数値もまだ改善の余地を残しています。それでも、深刻な人手不足という構造的な課題に対して、AI・ロボットが現実的な選択肢として動き始めていることは注目に値します。
自治体主導のDX:館林市の生成AI活用が示す成果
群馬県では自治体レベルのDXも中小企業のAI活用を後押しする役割を担っています。特に注目されるのが、人口減少(2060年に約40%減が予測される)と予算の制約に直面する館林市の取り組みです。
館林市は行政業務に特化した国産生成AI「QommonsAI」を、少人数での試行から全庁展開へと段階的に導入するアプローチで採用しました。その結果、導入からわずか3ヶ月で文書作成にかかる時間を66.7%削減し、年間2,300万円のコスト削減効果を達成したと報告されています。職員の85%が満足と回答しており、文字数制限のない利用環境や議会対応向けの事前学習機能が評価されています。
前橋市でも、将来的に現在の半数の職員で業務を回すことを見据え、職員用に2,600台のChromebookを導入してリモートワーク環境を整備するとともに、生成AIの業務利用ガイドラインを早期に策定しています。高崎市でも2023年11月から全庁的に生成AIを本格導入し、資料検索や文章作成の時間を削減するとともに、24時間対応のAIチャットボットによる市民サービス向上を実現しています。
自治体のこうした取り組みは、地域の中小企業にとっても「身近な成功事例」として参考になります。館林市が採用した「少人数での試行から全庁展開へ」という段階的な導入プロセスは、リソースが限られる中小企業にもそのまま当てはめられる考え方です。
産学連携:群馬大学が支える技術基盤
群馬県のAI・DX推進を語る上で欠かせないのが、群馬大学を中核とした産学連携です。群馬大学は2017年に全国で初めて自動運転レベル4に特化した研究開発施設を構築した先進機関であり、この技術基盤が地域企業との連携に活かされています。
群馬県安中市の物流企業である株式会社ボルテックスセイグンは、2021年に群馬大学と包括協定を締結し、バスの自動運転実装技術を中型トラックへ転用する実証実験に成功しました。物流業界の慢性的な人手不足への対策として、また旧JR信越線の廃線を活用したEVレールカートの開発など、モビリティ分野でのAIプラットフォーム構築に向けた共同研究が進められています。
医療分野でも、群馬大学は重粒子線治療において10年以上・5,000例を超える治療実績データを持ち、株式会社日立製作所との共同研究でAIによる治療法と効果の相関分析を進めています。前橋市に本社を置く株式会社クライムとは「医療デジタルシステム開発学寄附講座」を設置し、データサイエンスと医療の両分野に強い人材の育成にも取り組んでいます。
こうした大学発の技術と知見が、県内企業のAI活用を技術的に裏打ちするエコシステムを形成している点は、群馬県のDXが持つ大きな特徴の一つです。
補助金という後押し:ぐんまDX技術革新補助金
これまで紹介した事例の多くに共通するのが、外部支援の活用です。群馬県は中小企業のDX推進を資金面から支えるため、「ぐんまDX技術革新補助金」を設けています。デジタル技術を活用した生産プロセスの改善を目指す「デジタル実装枠」と、ビジネスモデル自体の変革を目指す「ビジネスモデル変革枠」の2種類があり、補助限度額は最大500万円、補助率は対象経費の2分の1です。
また、県はベネッセコーポレーションに運営を委託した「群馬県DX人材リスキリング推進事業」も展開しており、DXスキル診断に基づく学習計画の作成や専門家による伴走支援を提供しています。厚生労働省の人材開発支援助成金と組み合わせれば、経費の最大75%の助成を受けられるスキームも用意されています。永井製作所のように、自社単独では解決が難しい課題に対して、こうした補助金や地域の産業支援機構のコーディネータをフル活用することが、投資リスクを抑えながらDXを進める有効な手段になっています。
群馬県のDX推進、残る課題は何か
一方で、群馬経済研究所が県内企業1,984社(有効回答359社)を対象に実施した調査からは、構造的な課題も見えています。DXに取り組む目的の8割超が「業務プロセスの改善や効率化」にとどまり、「新規製品・サービスの創出」や「ビジネスモデルの変革」に踏み込んでいる企業はまだ少数派です。また、全社戦略に基づいて専門部署やプロジェクトチームを設置している企業も限られており、「ITリテラシーが低く、システム作りの進め方が分からない」という声も根強く残っています。
これらの課題を乗り越えた企業に共通する成功要因は、大きく3つに整理できます。1つ目は経営トップの強力なコミットメントです。土屋合成やシステムセイコーのように、社長自らが目標を設定し関与することが不可欠です。2つ目はスモールスタートです。館林市のQommonsAI導入や、無料クラウドツールから始めた県内めっき加工企業の事例のように、小さく始めて成功体験を積み重ねるアプローチがリスクを抑えます。3つ目はリスキリングによる人材の内製化で、外部ベンダーへの丸投げではなく、現場を理解する社員がITスキルを習得することが、長期的な定着につながります。
群馬県における中小企業のAI・DXは、単なる概念の議論を過ぎ、図面解析、自動収穫ロボット、行政の生成AI活用といった、定量的な成果を生み出すフェーズへと移行しています。次のステップは、個別の業務効率化から、事業そのものの変革へとどう踏み出していくかにあります。
Josyscoでは、大学生と共に中小企業のAI・DX推進を伴走支援しています。 「うちの業種でもAIは使えるのか」「何から始めればいいか分からない」という段階からでも、ぜひお気軽にご相談ください。
参考文献
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独立行政法人中小企業基盤整備機構「令和6年度中小企業事例集」(永井製作所) https://seisansei.smrj.go.jp/case/20251125.html
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経済産業省「AI人材連携による中小企業課題解決促進事業」事例集(クシダ工業) https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/Collaboration2021.pdf
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群馬県「ぐんまDX技術革新補助金」 https://www.pref.gunma.jp/site/hojokin/10638.html
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群馬県「群馬県DX人材リスキリング推進事業」 https://www.pref.gunma.jp/site/reskilling/643876.html
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robotstart「JA全農ぐんま キュウリ自動収穫ロボット実証実験」 https://robotstart.info/article/2024/07/08/355836.html
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群馬大学・株式会社ボルテックスセイグン「産学連携に関する包括協定」 https://www.vortex.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2021/06/gunmadaigaku-vortex-houkatukyotei.pdf
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群馬経済研究所「群馬県内企業のDXの取り組みに関する調査」 https://www.gunma-eri.or.jp/
※本記事の統計データは2026年3月時点で確認された調査・報道情報に基づきます。制度内容や実証結果は変更される可能性があるため、最新情報は各機関の公式発表をご確認ください。
